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執筆者の写真Maiko

ザグレブが追いかけてきた。

更新日:2020年9月22日


その日は、暇だった。開店時間を1時間過ぎても、電話もあまり鳴らず、来店も少なくて。デスクで、淡々と仕事をこなしていた、ツアーの特典の手配漏れがないかとか、出発前の人のパスポートチェック、つまり有効期限が半年以上あるのかとか、、。手配の回答追いだったり。


閉店時間がきて、「乏しい本日の営業報告」をするのは心許ないけれど、トラブルもなく、対応に追われるほど忙しくもなく、このままのんびりと仕事を終えて帰宅できそうな予感に、ほっとしていた。


店内の洋楽ミュージックに耳を傾けられるくらい、余裕だったのだ。マンションの一角にあるヘンテコ店舗の入り口から、一人の真面目な青年が歩いてきた。


そして、真っ直ぐ、私の前に座る。


「ご来店ありがとうございます。ご用件、お伺いします。」


パソコンの画面から目を離し、立ち上がり、その人を見つめた。


「あ。えっと。ザグレブまで。」


ザグレブ、クロアチアの首都である。あまり観光で行く人はいないが、ビジネスや学会などで行く人はまぁ割といる。今回は後者かなと、のんびり構えていた。クロアチアまで日本からは直行便はないので、オーストリアのウィーンか、ドイツのフランクフルトとかミュンヘンで乗り継ぎ便を手配すれば楽勝!と思っていた。


「ご出発のお日付は?」 「3日後です。」 「お仕事で行かれますか?」 「あ。まぁそんなとこです。」


口数少なめで、こちらにプレッシャーを感じさせない程度の線引きに好感がもてた。

時間は、朝11時くらいだっただろうか。 私は、調べ始めた。計算では、30分強ぐらいで、入金や発券まで終わり、チケットをお渡しして、「ありがとうございました。お気をつけて行ってらして下さい」と頭を下げている予定だった。


が。


空いてない。。。。。。。


30分後、私はとてつもなく、チケット探しに苦戦していた。


「あの、少しお時間かかりそうです。時間は大丈夫ですか?」 「あ。じゃあまた、夕方きますね。」 「ものすごく、混み合っているみたいで、とりあえずお名前とお電話番号を教えておいて下さい。良いのがあれば、抑えておきます。」

「お願いします。」ペコリ。


慌てることもなく、スッと立って店を後にした青年の背中を見送りながら、頭の中は、完全に「ザグレブ」一色になった。


綺麗なルート、納得のいく相場の航空券が見つからないと、もやもやするので、早くスッキリしたかったのだ。


探せど、探せど、なんだかいいのが見つからなかった。


結局見つけられたのは、全日空で31万8千円。ヨーロッパ内で、2回乗継ぐというもの。ちょっと微妙な感じがしたけれども、探せども、探せども見つけられない。。。。。。

閉店間際の夕方に、再度ご来店。

ことの成り行きを説明した。自信のないチケットを提案。

「しょうがないですよね。それでお願いします。」


申し込みの手続きと3日後の出発ということで、チケットの発券業務も行なった。 チケットの緊急発券の依頼をして、閉店時間を少し過ぎた頃、無事、手続きは終わった。

なんだか、今日は一日中、ザグレブだったなーと思いながら、家路に着いた。

家について、お風呂に入って、定番になっていたキリンのグリーンラベル500mlを手に、テレビをポチり。


チャラチャチャチャーン。の曲が流れた。 「今日はザグレブへ」の、優しいナレーションとともに、「世界の街道を行く」が静かに、はじまった・・。

Smiycle

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