私は、酒飲みだ。風邪で声が枯れて出社すると、愛すべき後輩が「酒焼けですか?」と何くわぬ顔で聞いてくる。
そんな私が、大酒飲みの同僚とソウルへ行った。同僚と言っても、歳は4つ上。韓国好きの彼女に連れられて、あちこち回って、飲んだくれて。
後にも先にも、こんな飲んだくれの旅を私はしたことがない。相手が彼女だったからできたこと。
羽田発の全日空、午前便を手配して、昼にはソウルの金浦空港に着いた。朝早いフライトだからと彼女は、蒲田のホテルで前泊をしようと提案する。仕事を終えて乗り慣れて無い、満杯の京浜東北線で蒲田のホテルに向かう。先にホテルいた彼女はすでにほろ酔いだった。私も、キリンのグリーンラベルを飲んで、ビジネスホテルのベッドで眠る。
翌朝、羽田空港で旅の始まりに乾杯して、飛行機でも、もちろん飲んで、昼ごはんは、ソウルの繁華街である明洞(ミョンドン)で。明洞ど真ん中にあるロイヤルホテル、その真向かいにある1階がセブンイレブンになっている雑居ビルの2階のお店でソルロンタンを頂く。ソルロンタンは、乳白色をしたスープで、朝からお酒を飲んでいた私たちに優しかった。
ロイヤルホテル横にある、セントラルホテル明洞にチェックインし、しばし昼寝。夕方早い時間から、明洞でサムギョプサルを食べて、飲んで、それから、ソウルにある学生街、麻浦(マポ)に移動してクルクル巻きになった焼き肉を食べて、また飲んで、帰りにセブンイレブンでチャミスルを買って、飲んで。
焼き肉屋をはしごしたことも、後にも先にもこの時だけ。
翌朝は、後輩が言っていた様に、私の声はガラガラだった。
朝起きて、水を飲んで。ホテルのすぐそばにあった、庶民的な小店でキンパを食べて、ソウルのトレンドのお店が立ち並ぶ狎鴎亭(アックジョン)へ向かった。プラプラした後、新沙の食堂でカンジャンケジャンを食べて、また飲んで。
ここで、食べたカンジャンケジャンが忘れられないほどおいしくて、チャミスルとの相性も抜群で、人生最高と思ってしまった。
夜は、ネオン輝く東大門市場まで移動して、タッカンマリ通りで熱々のタッカマンマリを食べて、飲んで。
愛を語る。
「人を本当に愛していたら、好きになったら、どんなことをしても手に入れたいと思うのが、本当だ。自分以外の人が側にいていいとか嘘だ。」
「あんたはね、逃げているだけ、カッコつけてるんじゃないよ。」
酔っぱらった、彼女が私に言ってくる。色で表すと彼女は赤で、私は青で。
「好きな人が幸せだったらそこに自分はいなくても、私はいいけどね。」と呟いたことから、このお説教は始まった。
「あんたの言ってることが、全然わからんし、伝わらん!!」
と尚も彼女は言ってくる。
ソウルで過ごした夜は熱く、思い出深く、韓国の情気がそうさせるのか、お酒なのか、旅の妙なのか。あの、熱気溢れるソウルの夜に時々かえりたいと思う。
ソウルの熱い夜を一緒に過ごした日から、10年近く経って、彼女は自分の愛する人を手に入れたし、私はひとりでいるし。
大酒飲みの、赤と青の愛のセオリーは、案外、芯を食っていたのかもと思ってしまう。
Smiycle
Comments