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ドゥブロヴニクを手配した初めての夏。

執筆者の写真: MaikoMaiko


ドゥブロヴニク。ドゥブロヴニク。ドゥブロヴニク。。。。。


脳の中にある記憶の断片を探る。ドゥブロヴニクの3レターは何だっけ??そもそも、入社前に勉強したのだろうか????


ドゥブロヴニクは、クロアチアの南に位置する都市。透き通るブルーの海、アドリア海に面する美しい所。1979年には、世界文化遺産に登録され、ジブリ映画の紅の豚や魔女の宅急便のモチーフになったと、言われたりしている所。


旅行会社で働き初めて、初めての夏。私は、対面接客カウンターの机上でドゥブロヴニクと出逢った。


「ドゥブロヴニクに行きたいんですが〜。」と、縁なしメガネをかけ、オフホワイトのサマーニットに身を包み、優しそうな男性は私に言った。謙虚な人なのかシャイなのか、どこかしら申し訳なさそうに俯き加減にボソボソと話し、チラチラと上目使いにこちらに視線を向けていた。


夏の旅行シーズンを控え、店内の接客カウンターは満席。私の隣で接客している同僚は大きな声で自信に満ち満ちた案内をしている。指導係の男性社員は、慌ただしく自分のデスクとお客様のいる接客カウンターを行ったり来たりしていた。


私が初めて配属された支店は、接客カウンターにパソコンが置いてなかった。そのため、空席確認や予約手配、請求書の作成の度に自分のデスクに戻らねばいけなかった。


半人前の私にとって、接客カウンターに座るのは恐怖にも近かった。パソコンも置いていない、質問できる人も側にいない中で、お客様のオーダーや質問に答えていくこと、自分の脳内の記憶と知識と経験を頼りにしなければならないが、それもなく、口下手なので話術もなく。私はいつも自信がなくてボソボソと話していた。同僚やお客様である生きのいいおっちゃんに、「もっとシャキシャキ、元気よく話なさいよ!!」と揶揄われることもしばしばだった。


3レターとは、旅行会社勤務の人であれば絶対目にする、空港や都市のコードである。東京→TYO、羽田→HND、バンコク→BKK etc・・・・。と世界中の空港や都市にコードがあって、3つのアルファベットで表記される。旅行業界で使われる世界の共通コードである。


航空券を検索する時も、予約記録を作る時も、必ず必要となるため入社前にみっちり叩き込んだ。世界各国の首都と国際空港のある都市、日本から直行便の就航している空港の3レターなどを一心不乱に覚えた日々。


しかし。


ドゥブロヴニク。ドゥブロヴニク。ドゥブロヴニク。。。。。


出てこない。


私は、ドゥブロヴニクを知らなかった。


自分の知らない場所をお客様の口から聞く緊張と焦りを想像して欲しい。優しい男性を前に、じんわりと冷や汗が滲む。収集せねば、調べなければ、ドゥブロヴニク。どこにあるの?何、その変な名前?何があるの?


ドゥブロヴニク。ドゥブロヴニク。ドゥブロヴニク。。。。。頭の中でリフレインする。


焦りを悟られぬよう、早急にカウンターを後にし、自分のデスクで猛烈に調べる。まずは地図を広げ場所を確認、その後英語表記Dubrovnikをノートに写し、3レター検索画面のタグにDubrovnikを打ち込み、検索ボタンをクリック。


そしてついに3レターをDBVを探し当てた。


当時は、インターネットが自分のパソコンに繋がっていなかったため、このような回りくどい調べ方をしていたのだ。


DBVを探し当てて、やっと航空券を検索できる。どんなルートがいいのかも検討ができる。私はひとまず、胸を撫で下ろした。


DBVを初めて知った夏。


それからドゥブロヴニクを手配する夏がまた何度やって来ても、私はDBV を忘れなかった。頭の中にはそれだけでなく、アドリア海のブルーとオレンジ色の屋根のコントラストを描けるようになった。お客様の憧れの地であるドゥブロヴニクの美しさを一緒に想像できるようになった。


手配した場所がどんどん広がっていくに連れ、自分の知らない土地名を言われても、臆せず知ったかぶりをせず、素直にお客様と接することができるようになった。


夏をもうすぐ迎える季節がやって来ると、時々ドゥブロヴニクに思いを馳せる自分がいることを知った。


Smiycle

 
 
 

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