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執筆者の写真マイケル

桜の咲くころ


夙川沿いにて @兵庫

『桜を見に行くの。』 予想外の言葉に、パソコンの画面とにらめっこしながら、ニューヨーク行きの航空券を必死に検索していた私は、思わず手を止めた。 『桜ですか。。。。』 

パソコンの画面から、目を離し、彼女を見て、そう問いかけた私に、70歳を超えるであろう淑女はにっこり微笑んだ。 1912年、日本とアメリカの友好関係を祝うため、東京都からワシントンDCへ3020本の桜が贈られたことは、有名である。 ニューヨークからワシントンDCまで、アムトラック(アメリカ本土を走る高速鉄道)で約3時間ほど。 やさしい笑顔のその女性は、そこに桜を見に行きたいと、私に言ったのだった。 そのために、ニューヨークへ行きたいと。 まだまだ寒い日の続く、ある日の昼下がり。いつもと同じような職場で、パチパチパチパチとキーボードを打ちこみ、画面に向かって猫背ぎみの私は、その女性に惹きつけられた。

旅行会社の仕事は、地味である。チェック、チェック、チェック。海外航空券は、一文字のタイプミスが命取り、パスポートの名前と一文字でも違うと別人と判断され、飛行機に乗れない。また、発券後は、変更もしてくれない。チケットを新しく買うしかなくなるので、最善の注意を払う。間違いが起きないように、慎重に且つお待たせしないようにスピーディーに。

その他、チケット発券依頼、ホテル・鉄道・現地ツアーの手配。最終日程表作成。入国に関してお客様のパスポート情報、VISAの有無の確認、さらには、航空券の座席・食事の希望に至るまで、店舗のオペレータは、こと細かいオーダーを請け負っている。大量の業務内容に忙殺されていく。 さらに、女性は続ける、

『ホテルはねマンハッタンのビルが見渡せる、街の中心の最上階。そこで私、お昼寝するの』っと、まるでいたずら好きの女の子のように笑いながら。 『素敵ですね』

口下手の私から出た言葉。 心からそう思った。

日々の業務の中で、ふっと風が吹いた。あぁいいな。いい気持ちだ。 ニューヨークまで、片道、直行便でもおよそ14時間。航空券代金は、その時、15万円程だったと思う。 粋な買い物。 接客が終わり、『ありがとうございました』と頭を下げる。

少し足をひきずって歩く彼女の後姿を見送りながら、彼女が出発する4月3日、その日に満開の桜が咲きますようにと祈らずにはいられない、そんな午後のひとときでした。

Smiycle

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