「きっぷがいい」という言葉。江戸時代に生まれた、江戸言葉です。「氣風(きふう)」読みが転じて、「氣っ風(きっぷう→きっぷ)」になったそう。
「氣風」とは、人の気性や気質のことを指し、「氣っ風がいいね。」とは、思い切りが良く、さっぱりした性格であるという褒め言葉。
思わず、「きっぷがいいね!お兄さん!」と、言いたくなった小咄を一つ。
店内の窓から見える外の景色が濃紺を帯びてきた頃。薄い緑色の作業着を着た1人の外国籍の男性が慌てて入ってきた。
お客さんが、誰もいない店内をキョロキョロと見回して、『まだ、大丈夫ですか?』と、礼儀正しく、尋ねてくる。
『もちろん。大丈夫ですよ!』
私は、お座り下さいと、手振りを交えて伝えた。
ペコリとお辞儀して、青い椅子に彼は座った。
『コロンボまでチケット欲しいです。私、パタヤ友達います。行って、国へ帰りたいです。』
なるほど。
彼はスリランカの人で、帰国するためにスリランカのコロンボまでのチケットを買いたい。そして、タイのバンコクから車で2時間弱程で行ける、ビーチリゾートのパタヤに立ち寄って、友達にも会いたい。つまり、東京→バンコク→コロンボのチケットで、バンコクで途中降機(ストップオーバー)できる航空券を探していたのだ。
航空券には、実にたくさんの券種が存在する。ストップオーバーが出来るか否かも券種によって違う。座席の事前指定ができるできないも、券種によって違ったりするので、航空券は奥が深い。
早速、彼の希望の航空券を探し始めた。私はいつものようにパソコンの画面を見て、検索する。彼は、キョロキョロと、店内の壁一面に並べられた色とりどりのパンフレットを眺めている。
緑色に輝くオーロラや、夕景に赤く染まるモニュメントバレー、ワイキキビーチの澄んだ青などパンフレットの表紙の写真は、いつも心を軽くしてくれる。
私は、何の捻りもいれずタイ国際航空(TG)の、東京発ーコロンボ行きの航空券を検索した。2拠点を訪れるならストップオーバーしたい国が運営する航空会社の航空券を探すのが一番シンプルで、スマートだと思うからだ。
東京→バンコク→コロンボのチケットは、11万円で見つかった。航空券の手配手数料を含めると、合計で12万円になる。
そのことを伝えた。
「・・・・・・・。」
しばらくの間が空いて、「10万円のないですか?」
彼は、もう少し安いチケットを探していたが、受託手荷物のキロ数が30キロあるタイ国際航空がいいとも言っていた。出稼ぎに日本に来て、3年振りにスリランカへ帰るので、家族への荷物がたんまりあるそう。券種、路線、航空会社によって、受託手荷物の許容重量も変わってくる。
調べてみても、タイ国際航空でバンコクにストップオーバーするとなると、どうしてもこの金額になってしまう。
「わかりました。ちょっと考えます。ありがとうございました。」ペコリとお辞儀をして彼は店を後にした。
翌日の同じくらいの時間に、また彼は訪れた。
「すみません、もう一回お願いします。」
航空券は生物なので、条件を満たす昨日より安いチケットが見つかるかもしれなかった。私は、一縷の望みをかけて探してみたが、やっぱり昨日と同じ12万円だった。
「う〜ん。」と、悩む彼。
そんな彼を見ていて、私は一つの提案をしてみた。
手配手数料が1万円かかるので、自分でタイ国際航空のサイトで手配をすれば、11万円にできる。そのことを、私は伝えたのだ。
営業マンとしては失格だが。手数料が高いので、ネットで自分で取るからと帰って行く人は多くなっていたし、もし自分が同じ立場だったら、そうしたかもしれないから。
今まで見積書と睨めっこしていた彼が、びっくりしたように私の目を見てきた。
「そんなことしません。あなた、昨日も今日も探してくれました。あなたの時間に、私、ちゃんとお金払います。待ってて下さい。」
そう言って、彼はATMにお金を下ろしに行ってしまった。
私は、席が混み合っていたこともあり昨日のうちに、探した席を念のため仮押さえしていたので、そのままそれが本契約へと繋がった。
彼が戻って来るまでに、急いで請求書などの書類を作り彼を待った。
お申し込み用紙を書いてもらっている間、少しだけ話をした。
「日本のお土産は何が喜ばれますか?」
「グリーンティー、これからたくさん買うよ」
彼は、笑っていた。私も、なんだかすごく、この日は嬉しかった。
スリランカを旅した先輩は言っていた、
「とにかく、スリランカの紅茶は美味しかった。」と。
日本の緑茶も、スリランカの人の心をハッピーにしているんだと思った。
そして、私は、彼の様に「氣っ風がいい人」でありたいと思った。
Smiycle
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